目次
ざっくり言うと
- 最新の流行曲は一過性の人気、もしくはだれかが演出したものかもしれない
- 三十年以上まえの曲で、いまだに支持されている作品は、まちがいなく質が高い
- 質が高い作品にたくさん触れる。技を取りいれる
- オリジナル曲や歌詞の質が変わる
- 人とちがう作品が作れるようになる
「いま流行っているもの」をどう見るか
ぼくが古い曲を意識的に聴くようになったのは、二十歳を過ぎてからだ。すこし遅い。
それまでは、過去の曲を軽視していた。『新しいもののほうが優れているはず』と思いこんでいたからだ。
でもあるとき、それはまったくの誤解だと気がついた。ものすごく古い曲のなかにも、奇跡のような名曲がある。五十年以上ファンの心の支えになったり、他のミュージシャンにカバーされたり、映画などで使われて再ヒットすることもある。
昔のぼくのように、『新しいもののほうが古いものより優れている』と決めつけるのは危険だ。
- 新しく感じられるもの
- いま、たくさんの人に支持されているもの
- 最先端のもの
のなかにも、当然、質の低い作品はある。これは音楽にかぎらない。マンガも、映画も、海外ドラマも、小説も、演劇もおなじだ。
流行や情報、なんとなくの雰囲気というものは、もしかしたら『だれかが計算して作りだしたもの』かもしれない。プロのクリエイターを目ざすなら、その可能性についていつも考えていた方がいい。
たとえば、
- 先行投資で、たくさんお金をかけて宣伝する
- 権威のある人にお勧めのコメントをもらう
- ネットの話題になるよう、工作する
- テレビや雑誌やラジオなどのメディアを使う
こういうことは日常的に行われている。
プロ志望者は、客観的な視点を持つべきだ
一般的なファンは『いまはこれが好き』と思えるものを支持すればいい。それはとても自然で、だれかが否定するような行為ではない。そしてそういうファンがいなければ、ミュージシャンだって生活ができない。
しかしプロを目ざすなら、純粋な『質の高低』にも意識を向けるべきだ。『感情にもとづく評価(好き嫌い)をいったんカットする』。そして客観的に質をチェックする。
『質の高い作品』は、多くの人の心を打つ。一部の人を熱狂させる。同時に、趣味や嗜好がちがう人にも、ある程度は受け入れられる。これがヒットするということだと思う。
昨年流行したものについて、自分で考えてみよう
それは、本当に、そんなにたいしたものだっただろうか?
もちろん素晴らしいものもあっただろう。しかしそうではないものもあったはずだ。その割合について考えてみてほしい。
『プロになる』ということは、『そういう人(や作品)と比べられる場所に自分の作品を投げこむ』ことでもある。だから、できるだけ冷静に、客観的になろう。
きみの耳を肥えさせよう
いい料理(料理に人生のほぼすべてを費やしているようなプロフェッショナルが作る料理)をたまに食べれば、舌が肥える。
ジャンクフードばかり食べていれば、味覚が破壊されていく。味の微調整ができないから、レシピを見たところでおいしい料理を作るのは難しい。
(別に、ものすごく高級な料理を食べろ、と言っているわけじゃない。探せば、町の小料理屋にも、ちいさな洋食屋にも、真剣で誠実な料理人はいる。ランチをやっている店なら、値段もそれほど高くない)
音楽も少し似ている。いい音楽――クオリティの高い、たくさんの人の心をわしづかみにするような音楽をたくさん聴いていると、耳が肥えてくる。
- 自然と、いいメロディーや構成を吸収することになる
- 自分の作品に求めるものが変わってくる
- 過去の名曲のエッセンスを取りいれた曲が作りたくなる
- 流行の音楽ばかり聴いていた人とはちがう個性が、次第に作られていく
『オリジナリティのある、質の高い作品』(そして演奏)ができれば、ミュージシャンとしての活動がうまく回りはじめるだろう。
質の善し悪しがわからないうちは
ぼくもそうだったけど、初心者のころは『どういうものが質が高くて、低いのか』自分の判断に自信が持てない。
十代の終わりごろ他人の曲の研究をしようと思って、ビルボードチャートの上位100曲をチェックしたことがある。そのときのぼくには、100曲中50曲ぐらいが「研究すべき質の高い曲」に感じられた。
(いまふり返ると、時間を割いて研究すべき曲は、5~10曲程度だったと思う)
きみも、いまは昔のぼくと同じ状況かもしれない。きちんとミックスやマスタリングされた曲は迫力がある。PVの質も曲の判断に影響する。海外の曲は、どれもなんとなくおしゃれに聞こえるかもしれない。
次の項で紹介する基準で曲を選べば、この問題は解決できる。
自分で判断できなくても、質の高い曲を見つける方法
三十年以上まえに作られた曲のうち、いまでも多くの人に聴かれている作品を探す。
その曲は、時の流れに耐えている。風化していない。いまでも新鮮な魅力を保っている。
定期的に他のミュージシャンにカバーされたり、映画などで使われたり、YouTubeの再生回数が(同時代の曲と比べて)二桁、三桁ちがったりする。人の心をつかみつづけているってことだ。こういう曲はまちがいなく名曲だ。当然、質が高い。
最初は『○○年代の名曲ベスト30』などのランキングらチェックしてみるといいだろう。ちょっとネットで検索すれば、上記の条件にあった名曲がいくらでも見つかる。
Spotifyなどのサブスクを利用すれば、各曲をYouTubeなどよりいい音質ですぐに聴ける。年代ごと、ジャンルごとにベストヒットがまとまっているから便利だ。
友人や知人、ネットの掲示板などで質問してみるのもいい。ていねいにたのめば、たいていの愛好者は親切にお勧めの曲について話してくれる。
おすすめの曲
ぼくもいくつか、おすすめの曲を挙げてみる。ためしにちょっと聴いてみてほしい。
四十年以上前に作られた曲ばかりだけど、「なるほどな、これはたしかに……」と感じてもらえるんじゃないか。
君の瞳に恋してる – フランキー・ヴァリ
Diana & Marvin – You’re my everything
The Beatles – Blackbird (1968)
バグルス – ラジオスターの悲劇
ちょっとした注意点 その1 どちらもやる
最新の曲をチェックすることも、もちろん大事だよ。でも、それはたくさんの人がやっている。その時間の一部を使って、過去の名曲もチェックしよう。
過去の賢人たちのやりかたを研究して、自分の創作手法に取りいれる。とても楽しいし、ひと味変わった作品ができるはずだ。それをつづければ、きみのクリエイターとしての価値を大幅に高めることができる。
注意点 その2 好みは大切に
個人的な好み(趣味、志向)は大事にしよう。
いくら世紀の名曲でも、どうしても好きになれないようなら、研究しなくていい。質が高い作品の中で、好きだな、と思えるものを探そう。
好きな作品と向きあっているときのほうが、きみの能力は高まる。結果的に身につくものも増える。
過去の名曲の研究は、継続しよう。数年続ければ、しっかりとした実力とオリジナリティが身につく。
その時々に流行している音楽しか聴いてこなかったミュージシャンが、その瞬間にどれだけがんばっても、きっときみにはかなわない。